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最高裁判所大法廷 昭和23年(オ)137号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人久岡重治代理人森西隆恒の上告理由第一点について。

自作農創設特別措置法第七条は同法第六条による農地買収計画に定められた農地につき市町村農地委員会のした処分に関する行政上の救済方法を定めた規定である。右救済を求めうる者は「農地につき所有権を有する者」即ち同法第三条にいう「農地の所有者」である。右農地の所有者は所論のように農地買収計画に買収すべき農地の所有者として記載された者に限るべき理由がなく、それに記載されていなくとも農地の所有権を主張する者も亦同法第七条第一項にいう「農地計画に定められた農地につき所有権を有する者」と解するのを相当とする。けだし農地買収計画に買収すべき農地の所有者として記載された者と否とについて等しく農地の所有者である以上その間にその救済の方法に差別をなすべき理由がなく、同法にいう農地の所有者に対する行政上並に裁判上の救済はすべて同法所定の手続によるべきことは右救済の趣旨に鑑みて明である。従て「上告人ノ為シタル本件異議並訴願ノ申立ハ其ノ実質ハ同法第七条ニ所謂異議並訴願ニアラス従テ上告人ノ訴願ニ対スル本件被上告人ノ裁決ハ同法第四七条ノ二ニ所謂行政庁ノ処分ニ該当セス」との上告人の所論はそれ自体が矛盾するものであつて、上告人のした本件異議の申立及び訴願並に被上告人のなした本件裁決が自作農創設特別措置法の規定に基く農地に関するものである以上、同法第七条による異議であり訴願であり又行政庁の処分である以外の何物でもなく、従て被上告人の行政処分の取消を求める本訴の提起期間については同法第四七条の二か又は同法附則第七条が適用され民訴応急措置法第八条の適用がないことは明であるから論旨は採用の限りでない。

同第二点について。

しかし、刑罰法規については憲法第三十九条によつて事後法の制定は禁止されているけれども、民事法規については憲法は法律がその効果を遡及せしめることを禁じてはいないのである。従て民事訴訟上の救済方法の如き公共の福祉が要請する限り従前の例によらず遡及して之を変更することができると解すべきである。出訴期間も民事訴訟上の救済方法に関するものであるから、新法を以て遡及して短縮しうるものと解すべきであつて、改正前の法律による出訴期間が既得権として当事者の権利となるものではない。そして新法を以て遡及して出訴期間を短縮することができる以上は、その期間が著しく不合理で実質上裁判の拒否と認められるような場合でない限り憲法第三二条に違反するということはできない。

本件について見るに、昭和二一年一二月自作農創設特別措置法制定当時は、行政処分について訴訟を提起することはできなかつたのであつたが、日本国憲法施行後は一般的に行政処分について訴訟を提起しうることとなつて、その出訴期間は民訴応急措置法第八条により六ケ月と定められたのである。然るに自作農創設特別措置法による農地買収の如き問題はなるべく早く解決せしめることが公共の福祉に適合するものであるから、昭和二二年一二月二六日前記特別措置法の改正施行と共に、新に第四七条の二が加えられて出訴期間を一ケ月に短縮したのである。しかし同改正法施行前に行はれた処分について同条をそのまま適用すると出訴する機会を与えられない者もありうるので、(即ち実質上裁判を拒否されることになる。)経過的規定として附則第七条によつて同改正法施行前にその処分のあつたことを知つた者にあつては、同法施行の日から一ケ月以内に出訴しうることとしたのである。これ等の立法の経過と規定の内容とを前段説明したところと併せ考えると、前記改正法第四七条の二及び同法附則第七条は何れも憲法第三二条に違反したということはできないから論旨は採用することができない。

以上のように、本件上告はいずれも理由がないから、民事訴訟法第四〇一条に則り本件上告を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担については同法第九五条第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見によるものである。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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